ソマティック・エクスペリエンシング™︎
ソマティック・エクスペリエンシング™とコヒアランス
私たちは日々、いろいろな出来事に心を動かされながら生活しています。
嬉しいこともありますし、しんどいこと、どうしても気持ちが追いつかないこともありますよね。
そんなとき、多くの人は「どう考えるか」「どう気持ちを整理するか」という、心のほうに意識を向けます。でも実は、心と同じくらい、あるいはそれ以上に影響しているのが身体の反応なんだということが、近年のトラウマ研究でよく分かってきました。
ソマティック・エクスペリエンシング™(SE)は、その身体の反応にそっと寄り添い、ゆっくり整えていくことで、心に溜まっていた負担を軽くしていこうとする優しいアプローチです。
■ SEは身体の“声”を丁寧に聴くアプローチ
SEは難しい技法のように見えるかもしれませんが、やっていることはとてもシンプルです。
たとえば、次のような感覚に少し注意を向けてみるだけでも、身体の反応は変わっていきます。
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ふっと息を吐いたときの胸のゆるみ
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手のひらの温かさや、じんわりとした重さ
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椅子に体重をあずけたときの支えられている感覚
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足裏の安定感や、床からの“押し返し”
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ほっとするときに自然に起きる深い呼吸
こうした小さな身体の信号をていねいに追いかけていくと、固くなっていた心身の緊張がゆっくりほどけていきます。
トラウマや強いストレスの経験があると、人は「戦う」「逃げる」「固まる」といった生理的な反応を身体の奥に閉じ込めてしまうことがあります。
SEではその“閉じ込められた反応”を無理なく、自然な形で外へと流していくのです。
これは押しつけるようなやり方ではなく、身体がもともと持っている“回復しようとする力”に静かに寄り添うようなプロセスに近いものです。
■ コヒアランスとは、心と身体のリズムがひとつにまとまること
コヒアランスという言葉は、専門的に聞こえるかもしれませんが、その本質はとても素朴で、私たちが普段「調子がいいな」「なんだか落ち着く」「気持ちが整っている」と感じるときの状態とよく似ています。
“コヒアランス”とは、
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心拍のリズム
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呼吸の自然な流れ
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自律神経のバランス
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身体の持つ中心の感覚
これらが、争うことなく優しくまとまり、全体がひとつの調和したリズムで動いているような感覚のことを指します。
たとえば、深呼吸をしたとき、胸やお腹の奥のほうが少し柔らかくなって、「ああ、ちょっと落ち着いた」と感じることがありますよね。
あの小さな変化が、実はコヒアランスへの入り口なのです。
■ SEを重ねると自然にコヒアランスが生まれていく理由
SEは「コヒアランスをつくりましょう」と意図的に目指す療法ではありません。
むしろ、SEのプロセスが進んでいくと、結果としてコヒアランスに似た状態が自然に顔を出すようになります。
身体が安全を感じ始めると、
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呼吸がゆっくりになり
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背筋の力みが静まり
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目の奥の疲れがほどけ
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頭の中のざわざわが落ち着き
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気持ちがだんだんと穏やかになる
こうした変化が積み重なっていきます。
これらはすべて、神経系が整ってきている証拠です。
身体と心がその日のリズムを取り戻すと、考え方や感情も自然に整理されていきます。
「頑張って気持ちをコントロールする」のではなく、「気づいたら落ち着きが戻っていた」という感覚に近いものかもしれません。
その“気づいたら落ち着いていた”という瞬間こそ、コヒアランスの訪れです。
■ コヒアランスは、回復のための土台になる
興味深いことに、コヒアランスが生まれると、人はより深い回復へと進みやすくなります。
それは、身体が「もう大丈夫だよ」と静かに教えてくれているからです。
安全で安心できる土台が整ったとき、私たちの神経系は自然に柔軟性を取り戻し、
これまで抱えていた不安や緊張、過去の痛みに向き合える力が生まれてきます。
心理療法の場でも、日常生活の中でも、
コヒアランスはとても大切な“真ん中の感覚”を支えてくれます。
■ やわらかくまとめると
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SEは身体の声を聴きながら、心身の緊張を無理なくほどいていく優しいアプローチ。
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コヒアランスは、身体と心のリズムが調和し、落ち着きや明晰さが自然に戻る状態。
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SEを続けていくと、コヒアランスが“自然とあらわれる”場面が増える。
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コヒアランスは、安心感や回復力が深まるための土台になる。
ゆっくり深呼吸ができたとき、ほんの少し肩の力が抜けたとき、
その静かなゆるみの先に、私たちの回復の道がつながっています。