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心理検査

MMPI-3とDSM-5-TRの基本的な役割の違い

1.MMPI-3とDSM-5-TRの基本的な役割の違い

MMPI-3とDSM-5-TRは、ともに心理臨床・精神医学の評価において重要な位置を占めていますが、その目的と性格は異なります。

  • DSM-5-TRは、アメリカ精神医学会(APA)が定めた精神疾患の診断基準書であり、診断名を決定するための国際的な標準を提供します。各疾患の診断基準、鑑別診断、併存症、経過、疫学などが詳細に記載され、臨床診断の最終的な根拠となります。

  • MMPI-3は、個人の心理的特徴や精神病理傾向を多面的に測定するための心理検査であり、質問紙形式で回答を得て、標準化された得点をもとに臨床像を把握します。診断名を直接与えるものではなく、DSMの診断を補助・裏付け・精緻化するための情報源として機能します。

したがって、DSM-5-TRが「診断の分類と基準の提供」を目的とするのに対し、MMPI-3は「個人の症状プロフィールや心理的特徴の測定・パターン化」を目的とする、という関係にあります。


2.MMPI-3の構造とDSM診断への対応

MMPI-3は、2010年代の臨床的・文化的変化やDSM-5への移行を踏まえ、MMPI-2-RFから改訂され、2020年に刊行されました。全335項目、成人用の標準化データに基づいており、以下のような尺度群で構成されています:

  • 妥当性尺度(回答の信頼性評価)

  • 上位尺度(全体的な精神病理の重症度)

  • 再構成臨床尺度(RC尺度:主要な症状群の中核を測定)

  • 特殊問題尺度(内的体験・行動・対人関係の具体的側面)

  • 人格・対人関係尺度

  • DSM-5診断尺度(Specific Problems Scales の一部)

このうちDSMとの関連が特に明確なのは、「DSM-5診断尺度」と呼ばれる下位尺度群です。MMPI-3ではDSM-5の診断カテゴリーとの整合性を高めるため、以下のような尺度が設定されています(成人用の場合):

  • うつ病尺度(DSF)

  • 不安尺度(ANX)

  • 不安関連障害尺度(ARX)

  • 躁的活性尺度(ACT)

  • 思考障害尺度(THD)

  • 反社会的行動尺度(ASB)

  • 統合失調症スペクトラム障害尺度(PSYC)

  • 外傷後ストレス障害関連尺度(PTSD)

これらはDSM-5に基づいて症状領域を抽出し、質問項目から統計的に抽出された因子構造を反映しています。そのため、DSM-5-TRの診断基準と症状領域の対応が比較的明確であり、MMPI-3の結果は診断面接や他の検査(例:構造化面接、臨床観察)と併せることで、DSM診断の裏付けや鑑別に大きな役割を果たします。


3.DSM-5-TR診断との具体的な連携例

例えば、DSM-5-TRで「大うつ病性障害」を診断する場合、面接での症状確認(抑うつ気分、興味喪失、睡眠障害、食欲変化、自責感、希死念慮など)が中心となりますが、MMPI-3ではDSF尺度(抑うつ感情)やRCd(デモラライゼーション)などが高得点を示すことが多く、主観的な抑うつ感情の強さや広がりを客観的に補強できます。

また、不安障害群ではANX尺度・ARX尺度が有用で、PTSDではPTSD尺度や思考障害尺度(THD)との併存の可能性を検討することができます。DSM診断基準では症状の有無を二分的に判断することが多いのに対し、MMPI-3では症状領域ごとの強度・広がり・併存傾向を定量的に把握できるため、診断の精度を高める助けになります。

さらに、DSM-5-TRでは併存症が多く、診断上の境界が曖昧なケースも多いですが、MMPI-3では複数の尺度の組み合わせからプロファイルパターンを抽出することができ、例えばうつと不安が併存する「混合性不安抑うつ状態」や、人格的脆弱性が症状を維持しているケースの検出に有用です。


4.診断補助としての役割と限界

MMPI-3はDSM-5-TRの診断基準と高い対応性を持ちますが、直接的な診断ツールではないという点は重要です。
高得点が得られたからといって、必ずしもDSMの診断基準を満たすとは限りません。例えばPTSD尺度が高い場合でも、実際にはトラウマ経験がDSMの定義に合致しないこともあり得ます。逆に、症状があっても回答態度や自己認識の制限により尺度得点が低く出ることもあります。

そのため、MMPI-3はDSM診断の補助資料として、面接、観察、他検査(WAIS, SCID-5, PCL-5 など)と総合的に評価することが推奨されます。


5.DSM-5-TRの改訂とMMPI-3の有用性

DSM-5-TRでは、DSM-5からのテキスト改訂が中心であり、新たな診断カテゴリの大幅な追加はないものの、診断基準の記述や鑑別診断の明確化、用語の修正などが行われました。MMPI-3はこれらDSM-5に準拠して作成されているため、DSM-5-TRの運用においてもそのまま整合的に使用できます。

特に、DSM-5-TRでは「文化的文脈」や「発達的視点」が重視されるようになっており、MMPI-3も現代的な項目内容・標準化データをもつため、従来のMMPI-2に比べ、DSM診断との対応精度が向上しています。


まとめ

MMPI-3とDSM-5-TRは、心理臨床において互いを補完する関係にあります。DSM-5-TRが診断の基準・分類を提供するのに対し、MMPI-3は症状領域や人格的特徴を多面的に測定し、診断を裏付け・精緻化・補強するために用いられます。とくにMMPI-3のDSM-5診断尺度は、DSM診断と直接対応しており、臨床判断の客観性と妥当性を高める有力なツールです。ただし、単独で診断を下すものではないため、面接や他検査との統合的運用が不可欠です。


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