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ブログ | 心の傷を癒す新しい選択肢。オンラインで手軽に。EMDRとフラッシュテクニック ソマティックエクスペリエンシング

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ソマティッック・エクスペリエンシング™︎と遊び

ソマティック・エクスペリエンシング(以下SE)は、ピーター・リヴィンによって開発された身体志向のトラウマ療法である。その根底には、「心的外傷(トラウマ)は出来事そのものではなく、神経系に未完了の生理的反応が残ることによって形成される」という考えがある。SEでは、クライエントが安全な環境の中で身体感覚(ソマティック・エクスペリエンス)に丁寧に気づき、過去に抑圧・凍結された神経系の反応を少しずつ解放していくことを重視する。過剰な再体験を避け、段階的に感覚をたどることで、神経系の自己調整能力(レジリエンス)が回復していくのが特徴である。

このSEの理論と実践において、「遊び(play)」は非常に重要な役割を担う可能性がある。人間や動物にとって遊びは、単なる娯楽ではなく、神経系を調整し、社会的な関係性を育み、安全感と創造性を育てるための本質的な行為である。たとえば、哺乳類の子どもは遊びを通して、戦う、逃げる、じゃれ合うといった行動パターンを安全な文脈の中で繰り返し体験し、自律神経系の幅広い調整力を身につけていく。これはSEにおける「振幅の拡大(capacityの拡張)」に通じるプロセスである。

トラウマを抱えた人は、多くの場合、神経系が過剰に興奮(交感神経優位)または過度に抑制(背側迷走神経優位)された状態に固定化されやすい。そうした状態では、自由で自発的な遊びが制限される。遊びには探索的・創造的な側面が必要だが、過覚醒状態では危険感受性が高まり、遊びに集中できない。一方で、シャットダウン状態では遊びに必要な活力が湧かない。つまり、遊びは神経系の柔軟な切り替えと安全の感覚があって初めて可能になる行為なのである。

SEのセッションでは、クライエントが安全に身体感覚を追いながら、「遊びの芽」を再び取り戻していく過程が重視されることがある。これは意図的な「遊びの導入」というよりも、神経系が回復してくることで自然に遊び心が湧いてくる現象として現れることが多い。例えば、セッション中にクライエントがふと笑い出したり、身体をリズミカルに揺らしたり、動物の動きをまねたりする場面がある。こうした「遊びの要素」は、過去の脅威状態から離れ、安全と好奇心に基づく神経系の状態へとシフトしているサインとして重要である。

また、特に子どもに対するSE的なアプローチでは、遊びそのものが介入の中心になる場合が多い。言語的な処理や論理的理解が十分でない年齢では、身体と感覚を通じた非言語的な遊びの方が神経系に直接働きかけやすい。セラピストは遊びを通して、子どもが自分のリズムや動きを再発見し、安全に「戦う」「逃げる」「凍りつく」などの反応を少しずつ統合していくのを支える。たとえば、動物ごっこ、追いかけっこ、簡単な模倣ゲームなどは、自律神経の切り替えを促進し、同時に関係性の中で安心感を育む効果がある。

成人に対しても、遊びの要素は治療的価値を持つ。長期的なストレスやトラウマ体験によって、日常生活から遊び心が失われている人は少なくない。セッションの中で身体感覚への気づきを育て、少しずつ安全感が増すと、笑いや好奇心、自発的な動きといった「遊びの回復」が見られることがある。これは単なる気分の改善ではなく、神経系の柔軟性と自己調整力が戻ってきたことの現れである。遊びは創造性と柔軟性を伴い、トラウマによって狭まった生の可能性を再び広げる鍵となる。

さらに、ポリヴェーガル理論の観点からも、遊びは社会的関与システム(ventral vagal complex)を活性化する行為である。安全な遊びは、他者との眼差しの共有、声の抑揚、表情の変化などを通じて、社会的な安全の神経経路を再び使えるようにする。SEと遊びを組み合わせることで、トラウマによって損なわれた社会的関係性や身体感覚の信頼を取り戻すことができるのである。

総じて、ソマティック・エクスペリエンシングと遊びは、単なる補助的関係ではなく、神経系の回復という共通の基盤をもつ相補的なプロセスである。遊びは安全と好奇心を土台にした神経系の柔軟な活動であり、SEはその基盤を再構築するための方法である。トラウマからの回復は単なる症状の除去ではなく、生きる喜びや創造性を取り戻すことでもある。遊びは、その喜びへの自然な回帰を象徴する重要な要素といえるだろう。

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