カウンセリング
【書評】①アダルト・チルドレン癒しのワークブック 本当の自分を取りもどす16の方法 西尾和美
Step1 本当の自分を取りもどすために
初版は1998年です。もう四半世紀前にもなります。当時はアダルト・チルドレンブームといっていいような状況でした。最近ではあまり聞かなくなりましたが、家族機能不全全般を示しているので、虐待、依存症、ヤングケアラー、ボーダーラインなどを包括している概念でもあります。当時はこうした家族で育った方への関心や直接的なケアは少なく、こうしたワークブック形式の書籍は画期的だったと思います。当時は心理療法全般の理論書は多くあったのですが、専門家用の解説書が多く、当事者に直接ケアするようなものは少なかったように思います。今の時代に読み直してみても、興味深いワークが多くあり、少しまとめてみたいと思いました。このワークブックのStep1は「本当の自分を取りもどすために」となっています。まずはアダルト・チルドレンの定義をしています。ここでは身体的、性的精神的な虐待があるなど、安全な場所として機能していない家族になかで育ったため、心が傷ついたり、自分の行動、思考、感情や人間関係に支障をきたしたり、生きづらさを感じたり、大人になってもその影響を受けているとしています。そこでこのワークではその問題を認識して意識的に修正していることが必要をしています。しかしそのためにはまずは、自分の心の傷と出会い、安全は場所を現実的につくり、人間として成長し、健全な人間関係をつくっていくことが必要としています。
このワークでのユニークさはグリーフワーク(嘆きのワーク)にあります。子どものころに本当にやりたかったことや家族に言えなかったことなどを表現していきます。またトラウマを引き起こした出来事が自分のせいではなかったことを認め、自分を受けいれ、トラウマがあったことを許すということをしていきます。今の流行でいうとセルフコンパッションに近いと思います。嘆きのワークはセルフコンパッションではバックドラフト現象を想起させますが、ここでは感情表出をセラピーとして利用しています。もっとも自分が悪くなく被害者であることを受け入れると加害者への憎悪が増幅していくこともありますので、こうした複雑な気持ちを受け入れる姿勢が相談者側には求められます。