ソマティック・エクスペリエンシング™︎
赤面恐怖 (ソマティックエクスペリエンシング™︎と認知行動療法の視点で)
赤面恐怖という悩みは、単に顔が赤くなるという身体現象以上に、その瞬間に感じる強烈な孤独感や「消えてしまいたい」というほどの恥ずかしさが本当につらいものですよね。
ここでは、頭(認知)で理解するアプローチと、体(神経系)から緩めていくアプローチを混ぜ合わせながら、一歩ずつ楽になっていく道のりを、自然な流れでお話しします。
1. そもそも、なぜ赤面が止まらなくなるのか
まず知っておいてほしいのは、赤面はあなたの心が弱いから起きるのではなく、脳の防衛システムが超・高性能すぎるゆえに起きているということです。
思考のループ:認知行動療法の視点 赤面恐怖の方は、人前に出ると意識のスポットライトがすべて自分に向いてしまいます。「今、赤くなったかも」「変に思われていないか」と自分の顔の温度ばかりをチェックしてしまう。これを自己注目と呼びます。 皮肉なことに、この赤さを気にするという行為そのものが、脳に「今は危機的状況だぞ!」という信号を送り、さらに血流を増やして赤くさせるという、皮肉なループを生んでいます。
体の悲鳴:ソマティック・エクスペリエンスの視点 一方で、体の中ではもっと原始的なことが起きています。過去に恥をかいた経験や、威圧的な視線にさらされた経験が、神経系の中に凍りついたエネルギーとして残っているのです。 赤面は、体が戦うか逃げるかのスイッチを全開にしているサイン。でも、社会生活の中では逃げ出すわけにもいかず、行き場を失ったエネルギーが毛細血管に溢れ出している状態と言えます。
2. 変化のためのステップ
治療というよりは、自分というシステムとの付き合い方を変えていくレッスンに近いかもしれません。
最初の一歩:意識を外へ、そして足元へ 一番苦しいのは、意識が自分の顔の内側に閉じ込められているときです。 まずは、顔が熱くなった瞬間に、あえて相手のネクタイの色や遠くの物音に意識を飛ばしてみてください。これが注意のシフトです。 同時に、椅子に座っているお尻の感覚や、地面を踏みしめている足の裏の感覚を感じてみます(グラウンディング)。顔に上りきったエネルギーを、物理的に地面の方へ引き下ろしてあげるイメージです。
中盤のステップ:感覚の振り子運動 次に、もう少し深い体のワークを取り入れます。 顔が熱くてたまらない不快感を感じる一方で、自分の体の中に「ここはマシだな」と感じる場所を1箇所だけ見つけてください。例えば、左の肘のあたりや、足の指先など。 熱い顔の感覚と落ち着いた肘の感覚を、ゆっくりと意識で行き来します(ペンデュレーション)。これを繰り返すと、神経系が「不快な感覚があっても、私は壊れない」というしなやかさを思い出していきます。
確信へのステップ:小さな人体実験 少し余裕が出てきたら、あえて完璧に隠すことをやめてみます。 これまで、マスクや髪、あるいはうつむくことで必死に守ってきた自分を、ほんの少しだけ晒してみる。そこで「顔が赤くなったけれど、世界は崩壊しなかった」「意外と誰も何も言ってこない」という事実を、体で確認していく作業(行動実験)です。
3. 赤くならない自分を目指さなくていい
ここが一番大切ですが、目指すべきゴールは赤くならないことではありません。 それは、心臓の鼓動を止めようとするのと同じくらい、自分自身の生命反応を否定することになってしまうからです。
本当のゴールは、「顔が赤くなっても、私は私のままでいられるし、伝えたいことを伝えられる」という感覚を取り戻すことです。 「あ、今赤くなってるな。でも、まあいいか」と自分を許せたとき、防衛システムは役割を終え、結果として赤面という症状そのものが静まっていくという、不思議な癒え方をしていきます。
このプロセスは、一日で完成するものではありません。何年もかけて守ってきた自分自身の反応を、ゆっくりと解きほぐしていく作業です。
もしよろしければ、あなたが一番「あぁ、この場面だけは本当に苦手だな」と感じる瞬間を一つ教えてもらえませんか? その場面で、具体的にどんなふうに意識を動かせば少しでも楽になれるか、もっとあなたに合わせた作戦を一緒に立ててみましょう。