ソマティック・エクスペリエンシング™︎
【解説2】ソマティック・エクスペリエンシング™︎とは何か ―トラウマを“身体”から癒す心理療法の全貌―(E-Lifeカウンセリングセンター)
第8章 不登校・登校しぶり・子どもの支援としてのSE
子どもの“からだの声”に寄り添う必要性
子どもの不登校や登校しぶりの場合、「行きたくない」「学校がこわい」といった感情が表面化することがあります。しかし、多くの場合、それは“気持ちだけ”の問題ではなく、身体の防衛反応 が関わっていることがあります。
たとえば、朝になると頭痛や腹痛がする、胸が苦しい、体がだるい、理由はよくわからないけれど「動けない」――
親や周囲からは「怠け・甘え」「気のせい」とみなされやすい反応も、実際には“神経系が守りモードに入っているサイン”かもしれません。
子どもは言語で感情や状態をうまく表現できないことが多く、
その代わりに体が「拒否」「固まり」「逃避」「シャットダウン」といった反応を示すのです。
SEは、その“言葉にならない身体からのサイン”に、やさしく耳を傾けるアプローチです。
無理に「なぜ学校に行きたくないのか」を話させずとも、身体の緊張や防御のパターンに気づき、安全を感じられる状態をつくることができます。
なぜ子どもにとって「安全で落ち着いた環境」が重要か
子どもの場合、とくに「家庭」「学校」「通学」の場が“安心できる場”になるよう整えることが大切です。
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提供者(カウンセラー/保護者)が穏やかで安心できる言葉と態度で接する
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無理に話をさせず「今この瞬間の体の感覚」に注意を向ける
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家庭でリラックスできる時間や空間を確保する
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セッションを複数回にわたって小さく刻む(1回で無理をしない)
SEではこうした配慮により、「からだ → 安全の感覚 → 社会との繋がりの回復」という自然なプロセスを促します。
実際、SEを取り入れた支援の場では、徐々に通学できるようになった子どもの報告があり、「本人のペース」を尊重することの大切さが浮き彫りになっています。
第9章 大人のトラウマケア — 職場ストレス・家庭問題・過去の傷
“見えない傷”に対するアプローチとしての価値
大人になってからのメンタル不調の多くは、過去のトラウマや慢性的なストレスによって、身体の神経ネットワークが過敏になっている可能性があります。
たとえば――
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長年の職場のプレッシャーや人間関係からくる慢性的なストレス
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子どもの頃の不適切な環境・家庭内での緊張
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事故、病気、手術、病院での体験
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繰り返される否定や無視、いじめ
こうした経験は、時間の経過とともに“記憶”としてだけでなく、“身体の防衛パターン(緊張・警戒・疲労・無力感)”として刻まれていることがあります。
認知や思考だけでアプローチする療法では変化が乏しかった人にとって、SEは“からだの奥”に働きかけるため、効果を感じやすいことがあります。
実生活への変化 — 「安心 → 安定 → 再構築」
SEを受けることで、次のような変化を感じる人が多くいます。
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睡眠の質が改善し、朝の疲労感が軽くなる
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体の緊張が和らぎ、肩こり・頭痛など身体症状の改善
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人と会うとき、対人関係で以前より楽に感じられるようになる
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怒り・不安・イライラなど感情の波が穏やかになり、日常に集中しやすくなる
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過去の嫌な記憶を思い出しても、体が落ち着きを保ちやすくなる
これは一夜にして起こるものではありません。
しかし、“無理せず”“自分のペースで” 取り組める療法であるため、長期間のストレスやトラウマを抱えてきた人にとって、変化を着実に感じやすい方法といえます。
第10章 ポリヴェーガル理論 と SE:なぜ「身体の安全感」が重要なのか
SE の理論的根拠としてよく参照されるのがポリヴェーガル理論(Polyvagal Theory)です。
🔹 ポリヴェーガル理論とは
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「迷走神経(vagus nerve)がただ一つではなく、異なる機能を持つ枝を複数もつ」という理論に基づきます。 tokyoco.jp+2株式会社サポートメンタルヘルス+2
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人の神経系は、単純に「交感神経 vs 副交感神経」の二分ではなく、状況に応じて “社会的交流に適した安全モード” / “闘争・逃走モード” / “シャットダウン(フリーズ)モード” を切り替えるという「ヒエラルキー構造」を持つ、という考え方です。 tokyoco.jp+1
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安心・安全を感じられる状態では 「社会的交流やリラックス」につながり、逆に危険や過去のトラウマが神経系に残っている場合、「防御モード(交感神経優位またはシャットダウン優位)」が常態化してしまう可能性があります。 銀座泰明クリニック+1
🔹 なぜこの理論が SE にとって大切か
SE は、ただ“感情”や“思考”を扱うのではなく、“身体と神経系の反応そのもの” に介入する方法です。
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身体が「安全だ」「リラックスできる」と感じられるとき、神経系は自然に“社会的交流・休息モード(腹側迷走神経優位)”へと切り替えやすくなる。
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逆に、過去の трав trauma や慢性的なストレスによって神経の防御システムが過敏になっていると、日常の些細な刺激でも“戦闘”あるいは“シャットダウン”モードが立ち上がってしまう。
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SEは、こうした神経のパターンに気づき、安全と安心を少しずつ取り戻すことで、身体と心のバランスを再構築することを目指します。
このように、ポリヴェーガル理論は SE の理論的土台として、「なぜ身体ワークがトラウマ・ストレスケアに効果があるのか」を説明する有力な枠組みとなります。 clayresessoms.com+2somatic-experiencing.de+2
第11章 ケーススタディ(匿名) — SE で感じられた変化
※以下は実際のクライアントの声をベースに、プライバシー保護のため匿名化・脚色したものです。
ケース A:20代女性 — 学生時代のいじめ経験・人間関係のストレス
背景
幼少期・学生時代にいじめや無視、友人関係のトラブルを経験し、
社会に出てからも「人と会うたびに緊張」「体が重い・だるい」「夜眠れない」「音や声に過敏」といった不調を抱えていた。
セッション開始時の状態
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常に肩や首が凝っていて、頭痛が慢性的
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朝起きるのがつらく、会社に遅刻・欠勤が続く
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人と会うと心臓がドキドキし、会話がつらい
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自分自身を責めやすく、自己肯定感が低い
SE を受けた結果(5回セッション実施後)
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肩・首の緊張がだいぶ和らぎ、頭痛が激減
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朝の起きやすさが改善。通勤や外出が以前より楽に
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会話中に緊張しづらくなり、人との関係に少しずつ安心感
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過去の記憶や苦しい思い出を思い出しても、身体が落ち着きを保ちやすくなる
「昔は“人の声”だけで震えていた。でも、今は“まずは体を感じる”ことで、安心を取り戻せるようになった」
このように、SEは “過去の傷” を完全に消すわけではなく、
「“今ここ” の身体の安全感を取り戻す」ことで、
日常生活の質や精神的安定を取り戻す助けになることがあります。
第12章 自宅でできる“からだのセルフケア” — SEを受ける前後にも
SEを受けられない期間、自宅でできるセルフケアを行うことで、神経系のバランスを保ちやすくなります。以下は、SE の理論(ポリヴェーガル理論)にも基づいた、効果的なセルフケアです。
✅ セルフケアの例
| 方法 | 効果 |
|---|---|
| ゆっくりとした深呼吸(腹式呼吸・横隔膜呼吸) | 迷走神経を刺激し、副交感神経のバランスを整える。リラックス効果。 |
| 足裏を床につけて「今ここ」を感じるボディスキャン | 身体の感覚を丁寧に感じることで、フリーズや過覚醒からの回復を促す。 |
| 軽いストレッチやゆるやかなヨガ、ゆっくりした動き | 筋肉の緊張をほぐし、自律神経の安定化を助ける。 |
| 心地よい音楽/歌う/ハミング | 喉や呼吸、声帯を使うことで、身体の“安心モード”を刺激。社会的つながりの感覚を支える。 |
| 安定した睡眠環境・生活リズム | 神経系全体の回復とバランス維持につながる。 |
第13章(補足) — なぜ “言葉より身体” が効くのか
多くの心理療法では、言葉を通して「思考」「感情」「記憶」を扱います。一方で、SE や身体中心アプローチが効果的なのは、次のような理由からです。
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トラウマや慢性ストレスは、言葉にできない、あるいは言葉にしづらい「感覚」「身体の防御パターン」「神経のクセ」として存在している場合がある
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言葉ではたどり着けない深い部分(無意識・神経系)を扱える
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身体が安全を感じやすくなることで、過去の痛みや恐怖の反応が少しずつ和らぎ、無理なく身体と心の統合が進む
つまり、身体的アプローチは、「無理なく」「自然に」「神経の学習を書き換える」ことを可能にするのです。