フラッシュテクニック
フラッシュテクニックの体験談
フラッシュテクニック体験談 ― 5つのケースから見える「心がほどける瞬間」
フラッシュテクニックは、長く語らなくても、つらい記憶に巻き込まれないようにしながら進めるトラウマケアの一つです。
「ほとんど話さなくていいなら、私でも受けられるかもしれない」
そう言って相談室に来る人は少なくありません。
ここでは、実際の相談室でよくあるテーマをもとにした5つのケースを紹介していきます。あくまでモデルケースですが、フラッシュテクニックがどんな感覚で進むのかをイメージしやすいと思います。もしあなたが「興味はあるけれど怖い」と感じているなら、きっと参考になるはずです。
1 不貞(裏切りによる痛み)
「思い出すと胸がつぶれる…でも少しずつ呼吸が戻ってきた」**
Aさん(30代女性)は、夫の不貞が発覚してから、一年近く眠れない日が続いていました。
スマートフォンの画面に浮かんでいたメッセージ。その一瞬の記憶が、まるで胸に棘のように残り続け、思い出すたび心臓が急に早く脈打つ。
「話すだけで涙が出てしまうんです」と彼女は言いました。
フラッシュテクニックでは、その“瞬間”をほんの3秒だけ思い出します。そしてすぐに離れ、セラピストの合図に合わせて軽く手を叩きます。
語り続ける必要はありません。
3回、4回と繰り返すにつれて、Aさんの呼吸はゆっくり落ち着き、肩の力も抜けていきました。
「まだ痛みはあります。でも、思い出しても“溺れない”感じがします」
彼女の言葉は、トラウマ処理が進み始めたときによく聞かれるものです。
記憶は消えなくても、身体の反応が弱まり、日常を取り戻す力が湧いてくる。
不貞の傷は深いですが、“語らないで進める”アプローチによって、自分の中心を守りながら処理ができるようになります。
2 パニック障害(突然の発作の記憶)
「もう来ないはずの発作が、記憶だけは身体を支配していた」**
Bさん(40代男性)は電車の中で起きたパニック発作をきっかけに、外出するだけでも手汗が止まらなくなりました。
「もう治ってきているのに、あの瞬間を思い出すと胸が苦しくなるんです」と言う。
パニック障害では、発作そのものより“あのときの記憶”が身体に残りやすいのが特徴です。
フラッシュテクニックでは、電車の中で「息ができない」と思った瞬間だけを一瞬だけ触れます。
Bさんは最初、恐怖のスケールを10段階中「9」と言いました。
数セット後、彼は不思議そうに眉をひそめました。
「さっきと同じ場面を思い出しているのに、胸の締めつけが弱くなっています」
トラウマ反応が下がると、「もう来るかもしれない」という予期不安も自然と薄れていきます。
Bさんは数回のセッションで、以前のように電車に乗れるようになりました。
「発作そのものより、記憶の重さがとれた感じがします」
彼の言葉は、パニック障害に伴うトラウマ処理が進んだときによく聞かれるものです。
3 適応障害(職場での負荷と身体の緊張)
「理由を説明しなくても心が少し軽くなった」**
Cさん(20代女性)は新しい職場で上司からの圧が強く、毎朝会社に近づくだけで動悸がしていました。
人に説明しようとすると涙があふれ、言葉にならない。
適応障害の背景には、慢性的ストレスだけでなく、“身体に残ったショックの瞬間”が潜んでいることがあります。
Cさんが選んだ処理場面は、上司から突然強い口調で詰められた瞬間。
声や表情までは詳しく語らず、イメージの輪郭だけ触れるように進めます。
数セット後、Cさんは静かに言いました。
「胸のつかえがすこしスーッとしたような感じがします」
フラッシュテクニックの特徴は、話したくない人には“ほとんど話さなくていい”こと。
必要なのは、処理したい“瞬間”だけ。
処理が進むにつれ、Cさんは職場での緊張が減り、上司の声を聞いても以前ほど体が固まらなくなったと言います。
「上司が変わったわけじゃないのに、不思議と自分の中の力が戻ってきました」
これは、自律神経の過覚醒が下がったときに生まれる自然な感覚です。
4 交通事故(フラッシュバックと身体の反応)
「音、光、匂い…全部がよみがえってくる。でも今は距離を置ける」**
Dさん(30代男性)は交通事故後、夜眠ろうとすると突然ハンドルを握る感覚がよみがえり、心臓が跳ねるような恐怖が走っていました。
事故そのものより、「衝突の瞬間」の衝撃が神経系に強く刻まれていたケースです。
フラッシュテクニックでは、その場面を3秒触れてすぐ離れる。
Dさんは、最初は顔をゆがめ、「胸がザワザワしてくる」と言いました。
しかし10分ほど続けると、身体の反応は目に見えて変化していきました。
「音は思い出しているのに、身体が飛び上がらないんです」
記憶はあるのに身体が反応しなくなる――これは事故のトラウマ処理でとても重要なポイントです。
人は“危険を思い出すこと”と“危険の中にいること”を区別できるようになると、安全に現在へ戻れるようになります。
数回のセッション後、Dさんは夜のフラッシュバックが減り、眠れる日が増えていきました。
5 暴言(言葉の傷と自己否定)
「言葉なのに、身体に刺さるような痛みがあった」**
Eさん(40代女性)は家庭環境のなかで長年パートナーから暴言を受けてきました。
暴言は“言葉”ですが、人によっては殴られたような身体反応を伴います。
「耳に残った声が、今も離れないんです」
フラッシュテクニックでは、暴言そのものを詳しく言う必要はありません。
Eさんは“言葉を浴びた瞬間の身体感覚”を対象に選びました。
数回繰り返すうちに、彼女は涙をこぼしながらこう言いました。
「今思い出しても、あの頃ほど私の心を支配する感じがありません。距離ができたみたいです」
暴言による傷は「自分には価値がない」という思い込みを作りやすいですが、身体の反応が落ち着くと、自己否定も少しずつほどけていきます。
「私は悪くなかったんだ、とやっと思えるようになりました」
フラッシュテクニックは、こうした“言葉のトラウマ”にも非常に相性が良い技法のひとつです。
フラッシュテクニックが向いている人は?
5つのケースに共通していたのは、
-
話そうとすると身体が固まる
-
思い出すと涙や動悸が出る
-
頭では「大丈夫」と思いたいのに身体が追いつかない
-
トラウマを詳しく語ることに抵抗がある
といった特徴です。
フラッシュテクニックは、まさにこうした人に向いています。
長く語らず、つらい記憶に引きずられず、短時間で処理が進みやすい。
「怖いけれどやってみたい」と思ったときが、ちょうど良いタイミングです。