EMDR
メンタルのセルフケア バタフライハグ
バタフライハグ(Butterfly Hug)は、もともと1997年にメキシコで起きた大地震の際、生存者の心のケアのために心理療法家ルシナ・アルティガスによって考案されました。
最大の特徴は、「両側性刺激(Bilateral Stimulation)」にあります。身体の左右を交互に刺激することで、脳の右半球と左半球をバランスよく活性化させ、高ぶった神経系を鎮静化させる効果が期待できます。これは、私たちが歩いている時に心が整理される感覚や、赤ん坊がトントンとあやされて眠りにつくメカニズムにも通じています。
実践のステップ:心身を整える手順
臨床的な場でも推奨される、最も標準的で効果的な手順をご紹介します。
1. 準備と呼吸
まずは、椅子に深く腰掛けるか、床に座り、足の裏がしっかりと地面についていることを確認してください。これを「グラウンディング(接地)」と呼び、心理的な安心感の土台となります。軽く目を閉じるか、あるいは視線を少し下げてぼんやりと一点を見つめます。鼻から吸って口から吐く、ゆったりとした呼吸を数回繰り返しましょう。
2. 「蝶」の形を作る
両腕を胸の前で交差させます。右手が左の上腕(または肩付近)に、左手が右の上腕に触れるようにします。親指同士を引っ掛けて、手のひらを広げると、ちょうど胸元に蝶が羽を広げたような形になります。
3. 左右交互のタッピング(ここが重要です)
左右の手のひらで、交互に、優しく、リズミカルに肩や腕を叩きます。
右、左、右、左…… と、一定のペースを保ちます。
強さは「心地よい」と感じる程度で十分です。
速度は、時計の秒針よりも少し遅いくらいの、ゆったりとしたリズムを意識してください。
4. 観察と受容
タッピングを続けながら、今、自分の内側に浮かんでくる思考、感情、身体の感覚(胸のざわつき、呼吸の深さなど)を、ただ「眺める」ように意識します。
ここで大切なのは、「何とかして消そう」としないことです。「あぁ、私は今こう感じているんだな」と、空を流れる雲を眺めるような気持ちで、ただタッピングの振動を感じ続けてください。
臨床的なアドバイス:より安全に行うために
この技法を行う際、以下の3つのポイントを心に留めておいてください。
「今、ここ」に戻る感覚: もしタッピング中に過去の辛い記憶に飲み込まれそうになったら、一度手を止め、周囲にある「目に見えるもの」を5つ数えるなどして、現在の現実に意識を戻してください。
短時間の継続: 一回のセッションは2〜3分程度で十分です。「少し落ち着いたかな」と感じたら、大きく深呼吸をして終了しましょう。
無理をしない: もしこの動作自体に不快感や違和感を覚える場合は、すぐに中断して構いません。セルフケアにおいて最も重要なのは、自分の感覚を尊重することです。
バタフライハグは、あなたの中に備わっている「自己治癒力」をサポートするためのツールです。特別な道具は必要ありません。あなたが自分自身を優しく抱きしめるその動きが、脳へ「今は安全だよ」というメッセージを届けてくれるのです。