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認知行動療法

認知処理療法の過剰調整について

トラウマが引き起こす「心の過剰防衛」のメカニズム

私たちは、人生において衝撃的な出来事(トラウマ)を経験すると、それまでの「世界はだいたい安全だ」「自分には価値がある」といった基本的な信条を根底から覆されてしまいます。この時、私たちの脳は一種のパニック状態に陥り、二度と同じような悲劇や痛みを繰り返さないために、猛烈な勢いで新しい「世界の歩き方マニュアル」を書き換えます。

このマニュアルの書き換えこそが「調整」と呼ばれるものですが、トラウマの衝撃があまりに強すぎると、その書き換えは必要以上に厳格で、極端なものになりがちです。これが「過剰調整」の正体です。

例えるなら、一度の食中毒を経験した人が「特定の食材を避ける(調整)」のではなく、「この世のすべての食べ物は毒であり、一生点滴だけで生きる(過剰調整)」と決めてしまうようなものです。確かにそうすれば食中毒は防げるかもしれませんが、食べる喜びや、栄養を摂って健やかに生きるという人生の質は著しく損なわれてしまいます。

過剰調整があなたの「日常」をどのように支配するか

過剰調整された考えは、単なる「ネガティブ思考」とは異なります。それは、自分を守るための「絶対的な法律」として心に君臨します。

例えば「安全性」に関する過剰調整について考えてみましょう。夜道で怖い思いをした後、「夜の一人歩きは控えよう」と考えるのは適切な調整です。しかし過剰調整が起きると、「日中であっても、鍵を三重にかけていても、自分は常に狙われている。誰とも目を合わせてはいけないし、公共交通機関に乗るのも自殺行為だ」という考えに発展します。この時、あなたの脳内ではアラートが鳴り響き続け、体は常に戦闘態勢(闘争・逃走反応)を維持するため、慢性的な疲労や不眠に悩まされることになります。

また、「信頼」の過剰調整は人間関係を砂漠のように変えてしまいます。かつて信じていた人に裏切られた経験から、「人間は隙を見せれば必ず攻撃してくる生き物だ」という極端なルールが生まれると、誰かが向けてくれる純粋な好意すらも、「何か魂胆があるはずだ」「今のうちに突き放さないと後で自分が傷つく」というフィルターを通して解釈されるようになります。こうして、本来あなたを癒やしてくれるはずの優しささえも、恐怖の対象へと変わってしまうのです。

5つの主要な領域における「極端な二分法」の深掘り

CPTでは、過剰調整が特に顕著に現れる5つの領域を特定し、そこにある「極端さ」を丁寧に解釈していきます。

  1. 安全性の領域 「世界は100%安全か、0%(地獄)か」という極端な二択になります。少しの不安要素があるだけで、その場所は「死地」と同じ意味を持ってしまいます。中間の「比較的安全な場所」という概念が消滅してしまうのです。

  2. 信頼の領域 「信頼できる人間は一人もいない」というルールです。ここでは「100回の善行」よりも「1回のミス」が重視され、一度でも期待を裏切られたら(あるいはその兆候が見えたら)、その人物は永久に敵リストに分類されます。

  3. 権力とコントロールの領域 トラウマによって奪われた「自分の人生を操る感覚」を取り戻そうとするあまり、周囲の環境や他人の行動を過剰に管理しようとします。それができないと、再び自分が無力な被害者に戻ってしまうような恐怖を感じるからです。あるいは、その逆で「自分には何も変えられない」という学習性無力感に陥ることもあります。

  4. 自尊心の領域 「自分は価値がある人間か、ゴミのような人間か」という二分法です。トラウマの責任を自分に押し付けることで、「自分は悪い人間だから、あんなことが起きたのだ。だからこれからも不幸でいなければならない」という過酷な自己罰則を課し続けます。

  5. 親密さの領域 人との繋がりを「痛みへの招待状」と見なします。心の距離が近づくほど、過剰調整された心は「逃げろ!」と警告を発します。その結果、孤独を感じながらも、誰とも深く繋がれないというジレンマに苦しむことになります。

「過剰調整」という鎖を解き放つために

認知処理療法(CPT)が行うのは、このガチガチに固まった「極端なマニュアル」を、もう一度現実の世界に照らし合わせて、使いやすいものへと修正していく作業です。

それは、無理やりポジティブになることではありません。事実は事実として認めつつ、「すべての人間」を「一部の人間」に、「いつも」を「あの時は」に、「100%」を「状況による」に、言葉の解像度を上げていくプロセスです。

過剰調整の中にいる間、あなたは常に嵐の中の小舟のように、高い波(恐怖)を避けることだけに必死になっています。しかし、少しずつ考えの極端さを和らげていくことで、海には穏やかな日もあり、遠くには安全な港があることに気づけるようになります。

あなたは、自分を守るためにその厳しいルールを作りました。それは、あなたがそれほどまでに過酷な状況を生き抜いてきたという「強さの証」でもあります。しかし、もうその重い鎧を脱いでも、あなたは安全に生きていける方法がある。それを一緒に探していくのが、この療法の本質です。

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