認知行動療法
認知処理療法の同化について
ピアジェが考えた「知恵の取り込み方」:同化
心理学者のジャン・ピアジェは、子供が世界をどのように理解していくかを研究する中で、人間には新しい情報を自分の頭の中に整理する仕組みがあると考えました。その一つが「同化」です。
私たちの頭の中には、これまでの経験で作られた「世界とはこういうものだ」「自分とはこういう人間だ」という知識のテンプレート(スキーマ)が存在します。新しい出来事に遭遇したとき、そのテンプレートに新しい情報をそのままパズルのピースのようにはめ込む作業が「同化」です。
例えば、鳥は空を飛ぶものだというテンプレートを持っている子供が、初めて飛行機を見たときに「あ、大きな鳥だ!」と呼ぶことがあります。これは、飛行機という新しい存在を、自分の持っている「空を飛ぶもの=鳥」という既存の知識に当てはめて理解しようとしている状態です。このように、対象を自分の既存の枠組みに合わせて解釈することが同化の本質です。
認知処理療法におけるトラウマと「同化」
この仕組みをトラウマのケアに応用したのが認知処理療法です。私たちは通常、「世界はそれなりに安全だ」「自分には物事をコントロールする力がある」といった、穏やかで肯定的なテンプレートを持って生活しています。しかし、あまりにも衝撃的な被害や事件(トラウマ)に遭うと、その出来事は既存のテンプレートには到底収まりきらないほど鋭く、巨大なものとして現れます。
ここで私たちの心は、激しい葛藤に直面します。「世界は安全で、自分は正しい判断ができる」というこれまでの信念を守りたいという欲求と、「あまりに理不尽で恐ろしいことが起きた」という事実の間で揺れ動くのです。
このとき、自分の信念を壊さないために、無理やり事実をねじ曲げてテンプレートに押し込もうとする現象が、CPTで言うところの「同化」です。具体的には、本当は防ぎようのなかった不可抗力の出来事に対して、「もしあの時、私が別の道を通っていれば」「私があんな服を着ていなければ」といった後悔や自責の念を付け加えることで、「自分が悪かったから起きたのだ(=自分が正しく行動していれば、世界は今も安全なはずだ)」と解釈してしまいます。
同化によって生まれる「スタック・ポイント」
このように同化が行われると、本来は被害者であるはずの人が、自分自身を責めるという苦しい論理の中に閉じ込められてしまいます。これをCPTでは「スタック・ポイント(停滞地点)」と呼びます。
なぜこのような苦しい解釈をしてしまうのかというと、それは「この世の中は全くの無秩序で、いつでも誰にでも恐ろしいことが起きる」という、より恐ろしい真実を受け入れることから自分を守るための、心の一時的な防衛策でもあるからです。しかし、自分を責める同化が続くと、いつまでもトラウマの苦痛から回復することができず、自己評価は下がり、世界に対する恐怖も消えません。
同化から「調節」へのステップ
治療の過程では、この強引な「同化」が行われていることに気づき、テンプレートの方を新しく作り替える「調節(アコモデーション)」という作業を目指します。
ピアジェの理論でも、同化だけでは知性は成長しません。新しい事実に合わせて、自分の頭の中のテンプレートを修正する「調節」を行うことで、人はより現実に即した賢さを手に入れます。CPTにおいても、「私が悪かったから被害に遭った(同化)」という考えを、「私は最善を尽くしたが、世の中には防げない悪意や事故も存在する。悪いのは加害者であり、私の価値は損なわれていない(調節)」という、より柔軟で真実に近い形へとアップデートしていくことが、回復への鍵となります。
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