カウンセリング
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理療法)の適応と禁忌
EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing/眼球運動による脱感作と再処理療法)は、トラウマやPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療に効果的とされている心理療法です。
フラッシュバックや辛い記憶に苦しむ方が、記憶の再処理を通じて心の安定を取り戻す手法として、近年注目されています。
しかし、すべての方にすぐに適用できるわけではなく、治療を始める前に慎重な判断や準備が必要なケースもあります。ここでは、EMDRが向いていないとされる「禁忌」や「注意すべき症状・状況」について、わかりやすく解説します。
【EMDRが不適切・慎重に検討すべきケース】
以下のような症状や状況にある方は、EMDRを始める前に十分なカウンセリングや準備、あるいは他の治療法の検討が必要です。
● 精神病性障害や統合失調症の方
幻覚や妄想がある場合、EMDRによって症状が悪化する可能性があります。
● 重度の解離性障害
意識が飛ぶ、現実感がなくなるといった「解離」が強い方は、感情のコントロールが難しくなる恐れがあります。
● 境界性パーソナリティ障害などの重いパーソナリティ障害
感情の起伏が激しい場合、EMDRの強い刺激によって混乱を招くことがあります。
● 重度のうつ病・自殺念慮が強い場合
治療中に感情が大きく動くため、自傷や希死念慮が強い状態ではEMDRは適していません。
● 薬物やアルコールの乱用・依存状態にある方
物質の影響により、記憶や感情の処理が安定せず、効果的な治療が行いにくくなります。
● 現在、強いストレスや生活上の危機に直面している場合
安定した生活環境や心の落ち着きがないと、EMDRはかえって負担になることがあります。
● 感情調整が難しい方
感情の爆発や抑えが効かない方は、まず感情の安定を目指す治療が優先されます。
● 社会的サポートが不足している場合
家族や支援者がいない場合、治療中に生じる不安や動揺に一人で対処するのは困難です。
● てんかんの既往がある方や視覚に問題がある方
眼球運動が発作や不快感を誘発する可能性があります。
● 脳の損傷や神経疾患がある方
脳機能に関わる問題がある場合は、専門医の判断と連携が必要です。
【条件によっては実施可能なケース】
次のようなケースでは、適切な準備と経験豊富なセラピストのサポートがあればEMDRが有効な場合もあります。
● 複雑性PTSD(複雑なトラウマ体験)
まずは「安定化」や「リソース構築」といった段階的なサポートを受けることで、安全にEMDRを進めることができます。
● 頭痛やめまいなど身体症状が強い方
セッション中に一時的に悪化する可能性がありますが、体調管理をしながら対応できます。
● フラッシュバックが強い方
安全な枠組みやトラウマ処理の技術を持つセラピストの下で行うことで、回復に繋がることもあります。
EMDRを安全に受けるために大切なこと
EMDRは非常に効果的な治療法ですが、すべての人にすぐに適用できるわけではありません。
治療を安全かつ効果的に進めるためには、以下がとても大切です:
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EMDRの正式な訓練を受けたセラピストと相談する
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詳細なアセスメント(心理評価)を受ける
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自分の心身の状態に合ったタイミングで治療を始める
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安心できる環境や支援体制を整える
おわりに
「EMDRは誰にでも効果がある魔法の治療法」というわけではありません。
それぞれの状況や心の状態に合わせた治療が必要です。EMDRを検討している方は、まずは信頼できる専門家に相談し、自分にとって最善のタイミングと方法を見つけることが大切です。