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ソマティック・エクスペリエンシング™︎(Somatic Experiencing®)のSIBAM

ソマティック・エクスペリエンシング(Somatic Experiencing: SE)における「SIBAM(サイバム)」は、ピーター・ラヴィーン博士によって提唱された、人間の体験を構成する5つの要素を表すモデルです。トラウマを抱える人々は、これらの要素が統合されずにバラバラになってしまう傾向があるとされており、SIBAMモデルは、この断片化された体験を再統合し、トラウマを解消するための「地図」として用いられます。

SIBAMは、以下の5つの要素の頭文字を取っています。

  • S – Sensation (身体感覚)
    • 身体に生じるあらゆる感覚を指します。例えば、温かさ、冷たさ、ぴりぴり感、締め付け感、痛み、震え、胃のむかつきなどです。
    • SEでは、トラウマ体験によって身体に閉じ込められたエネルギーが、これらの身体感覚として現れると捉え、クライアントがその感覚に意識を向け、安全な形で解放していくことを促します。
    • 「ボトムアップ」のアプローチの出発点となり、認知や感情よりもまず身体の感覚に焦点を当てます。
  • I – Image (イメージ)
    • 心に浮かぶ視覚的なイメージや、音、匂い、味、触覚などの感覚的なイメージ全般を指します。
    • トラウマに関連する具体的なイメージや、あるいはセラピーの過程で自然に浮かび上がるイメージなど、様々なイメージが扱われます。
    • イメージを通じて、無意識下の情報にアクセスし、トラウマを非言語的に処理するのに役立ちます。
  • B – Behavior (行動)
    • トラウマ的な出来事の際に抑制された、あるいは完遂できなかった身体的な行動や動きを指します。
    • 例えば、逃げる、戦う、押し返す、叫ぶといった、本来であれば生じるはずだった本能的な反応です。
    • SEでは、これらの未完結な行動を安全な環境で「完了」させることを通して、神経系に閉じ込められたサバイバル反応のエネルギーを解放していきます。身体の姿勢や身振り、呼吸の変化なども観察されます。
  • A – Affect (情動)
    • 恐怖、悲しみ、怒り、喜びなどの感情を指します。
    • クライアントがトラウマに関連する感情を安全に表現し、調整することをサポートします。
    • 感情の表現だけでなく、声のトーンや話し方、表情の変化なども観察の対象となります。
  • M – Meaning (意味)
    • トラウマ体験に対して、個人が抱く認知的な解釈や信念を指します。
    • 例えば、「自分は無力だ」「自分のせいだ」「世界は危険な場所だ」といったものです。
    • SEでは、これらの意味付けを再構築し、トラウマのネガティブな影響を和らげ、より健康的な理解を育むことを目指します。言語による表現が主な手段となります。

SIBAMモデルの重要性

SIBAMモデルは、ソマティック・エクスペリエンシングにおいて、以下の点で重要な役割を果たします。

  • 体験の全体性を捉える: 人間の体験が、身体感覚、イメージ、行動、情動、意味といった複数の側面から構成されていることを明確にします。
  • トラウマによる解離の理解: トラウマ体験では、これらの要素が互いに切り離され、統合されずに残ってしまう(解離する)という考え方に基づいています。
  • 安全なトラウマ処理のガイド: セラピストはSIBAMの各要素を丁寧に追っていくことで、クライアントが圧倒されることなく、少しずつトラウマエネルギーを処理できるように導きます。例えば、身体感覚に焦点を当て、それが安全な範囲で変化していくのを見守るといった方法が取られます。
  • 「ボトムアップ」と「トップダウン」の統合: まず身体感覚(ボトムアップ)からアプローチし、それがイメージ、行動、情動、意味へと繋がっていくことで、心と体の両方からトラウマを包括的に癒していきます。

要するに、ソマティック・エクスペリエンシングにおけるSIBAMモデルは、トラウマによってバラバラになった体験の断片を、身体感覚を起点として丁寧に繋ぎ合わせ、神経系の自己調整能力を取り戻し、未完結な本能的反応を完了させることで、トラウマからの回復を促進するための枠組みと言えます。

1. オーバーカップリング (Overcoupling) の概念

オーバーカップリングとは、トラウマ的な出来事において、本来は関連性のない刺激や情報が、恐怖や脅威の感覚と過剰に結びついてしまう現象を指します。

具体例:

  • バスに乗っている人が、バスの窓から強盗事件を目撃したとします。この人は直接的な被害者ではありませんが、この出来事によって「バスに乗ること」自体が、目撃時の強い恐怖や不安と過剰に結びついてしまうことがあります。その結果、バスに乗るたびに、関連性のない恐怖や不安を感じるようになります。
  • ある特定の音、匂い、視覚的な刺激、あるいは他者の特定の反応(例えば、特定の表情や声のトーン)などが、トラウマ体験時の圧倒的な感情や身体感覚と結びつき、その後の日常生活でその刺激に触れるたびに、不快な身体反応や感情的な苦痛が引き起こされることがあります。

なぜ起こるのか? トラウマ的な出来事では、神経系が過剰に活性化し、生存反応(闘争・逃走・凍結)が優位になります。この極度のストレス下では、脳は状況全体を危険信号として認識し、関連性のない情報も「脅威の一部」として処理してしまうことがあります。これにより、本来ならば危険ではない刺激に対しても、身体が防御反応を示すようになるのです。

2. アンダーカップリング (Undercoupling) の概念

アンダーカップリングとは、トラウマ的な出来事において、本来は結びつくべき情報や感覚が、切り離されて(分離されて)しまう現象を指します。これは、あまりにも圧倒的な体験だったために、神経系がその情報を処理しきれず、意識から切り離すことで自己保護を図ろうとすることです。

具体例:

  • 上記のバスの例で言えば、強盗事件を目撃した人が、その出来事があまりにも衝撃的だったために、事件そのものの記憶や、その時に感じた感情、身体感覚の一部を完全に忘れてしまうことがあります。しかし、バスに乗るたびに漠然とした不安を感じるものの、その原因が強盗事件の目撃体験にあることに気づかない、といった状態です。
  • トラウマ的な出来事の一部(例えば、身体の特定の部位で感じた痛みや感覚、特定の音や映像)が、意識的な記憶から欠落しているにもかかわらず、身体はその分離された情報に基づいた反応(例えば、原因不明の慢性的な痛みや麻痺感)を示すことがあります。
  • 出来事の順序が曖昧になったり、感情と身体感覚が切り離されて、感情が伴わない形で出来事を語ったりすることがあります。

なぜ起こるのか? アンダーカップリングは、神経系が圧倒的な情報や感情から自己を守るための防御メカニズムとして機能します。これは一種の解離(dissociation)であり、体験の苦痛を軽減するために、意識と体験との間に「壁」を作ることで、機能の維持を図ろうとします。しかし、結果として、その出来事が完全に統合されず、未解決のまま身体や精神に残ってしまうことになります。

3. 具体的な技法(SEにおけるアプローチ)

SEでは、これらのオーバーカップリングとアンダーカップリングの状態を解消し、神経系の自己調整能力を回復させることを目指します。具体的な技法は多岐にわたりますが、核となるのは以下の要素です。

  • SIBAMモデルの活用: ピーター・レヴィンは、人間の体験を5つの要素(感覚 Sensation、イメージ Image、行動 Behavior、感情 Affect、意味 Meaning)からなる「SIBAMモデル」で捉えています。
    • オーバーカップリングは、これらの要素のうち、本来結びつくべきでない要素が過剰に結びついている状態(例:バスに乗る行動と恐怖の感情)。
    • アンダーカップリングは、本来結びつくべき要素が分離されている状態(例:トラウマ体験の感覚と記憶)。 SEでは、これらのSIBAM要素を細かく追跡し、分離している要素を再び結びつけたり、過剰に結びついている要素を解きほぐしたりすることを支援します。
  • 身体感覚のトラッキング (Tracking Sensations): クライアントが身体に現れる微細な感覚(熱感、冷感、ピリピリ感、重さ、軽さ、痛み、震えなど)に意識を向け、それらがどのように変化するかを丁寧に観察していきます。これにより、過剰な活性化(オーバーカップリングによるものも含む)や、分離された感覚(アンダーカップリングによるもの)に気づき、それらを統合するきっかけを作ります。
  • タイトレーション (Titration): トラウマ記憶や強い感情に直接向き合うのではなく、安全な範囲で少しずつ(一滴ずつ)トラウマに関連する活性化を導入し、それを解放するプロセスを繰り返します。これにより、圧倒されずにトラウマエネルギーを処理する能力を段階的に向上させます。オーバーカップリングで過剰に結びついた要素を、少量ずつ安全な環境で体験し直すことで、その結びつきを弱めていきます。
  • ペンデュレーション (Pendulation): 心地よい感覚やリソースに焦点を当てる「安全な状態」と、トラウマに関連する活性化された感覚に焦点を当てる「活性化された状態」の間を、振り子のように意識的に行き来します。これにより、神経系が活性化と鎮静のバランスを取り戻し、自己調整能力を高めることを促します。アンダーカップリングで分離された感覚を、安全な状態と行き来することで、徐々に統合を促します。
  • リソースの特定と強化 (Resourcing): クライアントが安心感や落ち着きを感じられる場所、人、活動、記憶などを特定し、それらを活用することで、神経系に安全な感覚を提供します。これにより、トラウマ反応に圧倒されずに、困難な感覚や感情を処理するための土台を築きます。これは、オーバーカップリングによって引き起こされる不快な感覚からの脱出路としても機能します。
  • オリエンテーション (Orientation): クライアントが周囲の環境に意識を向け、安全であることを確認する練習です。これにより、身体の「今ここ」への感覚を高め、過剰な活性化から離れ、地に足の着いた状態を促進します。特に、オーバーカップリングによって引き起こされる「まるで今も危険な状況にいるかのような感覚」から抜け出すのに役立ちます。
  • 未完了の防御反応の完了 (Completion of Self-Protective Responses): トラウマ体験時に身体が凍結したり、闘争・逃走反応が抑制されたりした場合、その未完了のエネルギーが神経系に閉じ込められます。SEでは、身体が自然に行いたかった動き(例えば、震え、逃げる動き、パンチをする動きなど)を安全な方法で完了させることを促し、閉じ込められたエネルギーの解放を支援します。

 これらの技法は、単独で行われるだけでなく、クライアントの個々の状態に合わせて組み合わせて用いられます。SEの目的は、症状を抑えることではなく、神経系の自己調整能力を回復させ、トラウマによって混乱したシステムを自然な状態に戻すことによって、クライアントがより充実した人生を送れるように支援することです。

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