カウンセリング
12.「うつと不安への認知行動療法の統一プロトコル」第9章「 身体感覚になれる」 デビッドH.バーロウ
身体感覚に慣れる
なぜ身体感覚が重要なのでしょうか?
ほとんどの感情には、それに対応した身体感覚があります。例えば、不安は、動悸や息切れ、めまい、方向感覚の喪失、筋肉の緊張、胸の圧迫感、発汗などを伴います。落ち込みや憂鬱は、疲労感や胸のつかえ、手足が重たい感じなどにつながります。怒りは、筋肉の緊張やほてりなどにつながります。罪悪感や恥は、腹部の不快感や赤面をもたらす傾向があります。こうした身体感覚は、感情とともに自然に出てくるものです。こうした身体感覚によって感情が伝えるメッセージに気づいたり、行動を起こしやすくなることができます。身体感覚は様々な形で感情を強めてしまいます。また、身体感覚のせいで悪いことが起こりつつあるように思えてくることがあります。例えば、心拍数が上がるとパニック発作が起こると心配する人がいます。身体感覚が他人に気づかれることを心配する人もいます。責任したり、汗をかいたりしたら、緊張がばれてしまうと考えてしまいます。身体感覚は感情を強めるので回避してしまうのは当然です。しかし、この回避は長期的には逆効果になります。回避していると、その感覚にもっと敏感になって圧倒されるように感じていきます。これは誤った学習になっていきます。
身体感覚の解釈
身体感覚が生じると、当然その感覚に意識が向けられます。この身体感覚をどのように解釈するかによっても、その後の展開が変わっていきます。例えばホラー映画を見ているとします。心臓がドキドキし、呼吸も早くなっていきます。発汗も生じるかもしれません。ジェットコースターではどうでしょうか。同様のことが生じる可能性があります。しかし、このような状況の場合、身体反応が強い場合であっても、多くの人は楽しむことができます。それは身体反応に対する解釈が異なっているからです。映画やジェットコースターでは安全が確保されていると言う認識があるため、必要以上に身体反応が強くなる事はありません。むしろその感覚を楽しむことができます。一方で、人前でスピーチをしたり、苦手な人混みにいる、さらには人の目線にさらされる場合はどうでしょう。この場合はジェットコースターと違い、危機的状況であるとは言えません。しかし、ジェットコースターと違い、その身体感覚への解釈は大きく異なってしまいます。例えば、動悸があったとします。この場合その動悸は死んでしまうのではないかと言う解釈がなされることが多いものです。スピーチにおいても自分のことを悪く思っている、あるいは嘲笑されていると解釈するかもしれません。この場合、身体感覚はより激しいものへとエスカレートしていきます。実は身体感覚、そのものは必ずしも悪く危険なものではありません。しかし、不安傾向の強い方は、この身体感覚を悪く危険だと解釈してしまうのです。
内部感覚エクスポージャー
身体感覚の解釈は変えることができます。そういった練習をしていけば徐々に不快な感じはなくなっていきます。そのためには感情を強く感じている時と同じ身体感覚をあえて生み出して、その感覚にとどまる練習を繰り返していくことが必要です。これを「内部感覚エクスポージャー」と呼びます。このことを実施するには、以下の理由があります。
1.身体感覚に意識を向けていくと思っているほど、悪い感覚には思えなくなっていきます。
2.身体感覚を繰り返していくと、何もしなくても大丈夫であることがわかっていきます。
3.身体感覚に慣れていきます。
身体感覚を引き起こす
身体感覚を生み出すエクササイズは数多くあります。辛い感情が起こっているときの感じに最もよく似た身体感覚を目指すエクササイズが何かを判断していきます。
例えば、過呼吸、細いストローで呼吸する、回転する、その場で走る、スクワット、階段の上り下り等があります。こうしたエクササイズは慣れるために実施するものです。本気でやらなかったり、恐る恐るやったりすると役に立ちません。できるだけ身体感覚を弱めないようにしながら、その感覚を観察していきます。
繰り返す
今のようなエクササイズを何度も繰り返していきます。繰り返すことがコツです。繰り返し体験することで、感覚に慣れていけば苦痛ではなくなります。最終的には退屈にさえなっていきます。