カウンセリング
10.【書評】「うつと不安への認知行動療法の統一プロトコル」ワークブック改定第2版 第8章「 やわらかく考える」 デビッドH.バーロウ
やわらかく考える
この章では、「柔らかく考える」をテーマにしています。極論からすると、ここは人気的な修正になります。ここで扱うのは「結論の決めつけ」、「最悪思考」になります。
「結論の決めつけ」
結論の決めつけについては、いろいろな場面で起こりえますが、特に人間関係で生じやすいものです。なぜなら、他者が自分のことをどのように考えているかについては検証することが難しいからです。したがって一度こうした決めつけが生じると修正することが難しくなります。
縁起などで結論を決めるけると、こちらも修正が難しいものとなります。天気や占い、起きた時間などでも今日の出来事を決めつけてしまう場合もあります。
「最悪思考」
こちらも不安傾向のある方には特に顕著だと思います。最悪思考にも様々なものがあります。トンネルが崩れるのではないか、途中でお腹が痛くなるのではないか、心臓が止まって死んでしまうのではないか、人が自分のことを変な風に思っているのではないか、授業で当てられると失敗してしまうのではないか、飛行機が墜落してしまうのではないか、蜂に刺されてしまうのではないかといったものがよくあります。このような最悪思考の修正には様々なものがありますが、エクスポージャー療法では制止学習がよく知られていますが、少しこのプログラムでは自動思考の修正に力点が注がれています。
やわらかく考えるための問い
自動思考への問い
以上のような考え方(自動思考)を修正するために以下のような問いかけをおこないます。
この考えの確たる証拠は何か? 逆にそれを否定する証拠はあるか?
他の説明は全くありえないか?
この考えは激しい感情から生まれていないだろうか?
それが事実だとして、絶対に対応が不可能なのか?本当に1ミリも耐えられないのか?
そのことが確実に起こることであることを知っているのか?
そのことがどのくらい事実と感じるのか? 一方で、現実的な可能性はどれくらいか?
このような問いかけを事前にしておくことによって、もしそのようなことが起こったとしても、冷静に対応できるようになります。もしかすると事前に考えていたほど自体は悪くなかったりする場合も考えられます。もしこのようなことが体験的に起これば、体験による修正が行われることになります。この体験は非常に大きいものになります。もし難しい場合は、このような問いかけを何度も繰り返し実施していくことが重要です。
感情をやわらかく考える
不快な感情、例えば怒りや悲しみあるいは抑うつ感なども含まれています。こうした感情を否定的に捉えてしまうと、よりメンタル的な苦痛を強めてしまう可能性があります。感情と言うものは古くからあるもので、多くの場合何らかの役割を果たしている可能性が高いものです。不安は将来を予測するためには必要なものですし、悲しみは感情を解放したり、他者にしんどさを理解してもらうと言う点も重要です。抑うつ感は休息を促し、次のステップのための充電期間として重要な役割を果たしています。このように感情にとらわれるのではなく、なんらかの意味を持っているものと理解していくと、今生じている感情に適度な距離感を生じることができます。
侵入思考をやわらかく考える
意味をなさない考えやイメージがいきなり思い浮かんでくることがあります。特に強迫性障害の方には顕著かもしれません。の考えが思い浮かんだときに、どのように解釈するかが重要です。例えば、自分が子供に対して暴力をふるってしまうのではないかと言う考えがよぎったとします。この時に「自分はなんて残酷で暴力的な人間なんだ」と解釈してしまうと、さらに苦痛を生じさせてしまいます。やわらかく考えるためには、例えば「このように考えるとどんな気持ちになるだろうか? このような考えが思い浮かぶことが自分にとって何を意味するのか」といったことを考えていく方が生活を向上させるために、有意義な問いであると考えられます。さらには前述した「自分はなんて残酷で暴力的な人間なんだ」と言う考えに対して、どのような根拠があるのかを考え直していくことも有用ではないでしょうか。
自動思考の根底にある信念
自動思考について、さらに深く考察していく必要がある場合もあります。それは中核的信念と呼ばれているものです。例えば「自分には何の価値もない」、「この先、ずっと一人ぼっちだ」、「自分は劣っている」といったものです。こうした中核的信念があると、様々な場面で、こうした中核的信念にたどり着いてしまいます。それは例えば、優秀な同僚がいるとき、小さな指摘を受けたとき、軽微なミスがあったときなどに中核的信念にアクセスがかかるため、他の人と比べ感情の落ち込みが大きくなります。こうした中核的信念は、人生経験、特に幼少期に形成された可能性があります。もしかすると、大きな傷つき体験がこのような中核的信念を生じさせている可能性があります。こうした信念をやわらかく考えていくためには中核的信念が自分を守ってきた部分があることを理解し、自分の重要なパーツとして慈しむことが必要です。さらには、この信念をもう少し柔軟に対応できるように育てていくことも必要です。例えば「自分がうまくできる時もある」、「気さくに話しかけてくれる人がいる」などです。他にも様々な考え方があるかと思います。いずれにしても、中核的信念に対して少しバランスの良い解釈をしていていくことによって、現実の世界に調和していけるようになると柔軟さが増したことになります。